【実は身近な存在だった】日本の麻の歴史

 麻は多くの人が親しんでいる素材として知られていますが、その歴史は古く、およそ1万年前まで遡ります。世界中で記録が残っている麻ですが今回は、日本における麻の歴史について紹介していきます。

約1万年前の縄文時代には日本へと伝わっていた

 日本では縄文時代初期に麻が生育していたという記録があります。縄文時代の遺跡からは大麻の種が発見されており、さらには縄文土器の模様にも麻の縄が利用されています。また、縄文人には糸を作る技術もあったとのことです。縄文草創期となる今からおよそ1万年前の遺跡には、6種類の縄が出土しており、そのうちの2種類は麻であるという報告もされています。
 今では多くの衣服に使われている綿については、普及しだしたのは江戸時代初期になります。それまで、日本人は日用品として使用する布製品を、麻を使い作っていました。古来から現代に渡り、麻はさまざまな用途に利用されていたことがわかります。

弥生時代には織物として広まる

 弥生時代に入ると、麻は織物として発達していきます。今はその技法こそありませんが、日本は絹と麻を一緒に織る倭文織という織物があり、これは弥生時代に誕生したものです。
 弥生時代の人々は、麻を使った貫頭衣や袈裟衣という衣類を着用していました。学校の授業などで目にしたことがある人も少なくない「邪馬台国」の時代に着用していたものは、弥生時代の代表的な衣服として知られています。男性・女性を問わず、その素材には麻が使われており、魏志倭人伝に書かれています。なかには絹でできた衣服を身につけていた人もいるようですが、ほとんどが麻ということから、人々の生活に定着していたといえるでしょう。

飛鳥時代には名前に使用される

 飛鳥時代になると、麻は人の名前に使われるようになります。公家が使う自分を意味する呼称の「麻呂」もそうですし、漢字が日本に伝わり始めてから使用されだしたのです。また、人名だけでなく町の名前にも「麻」の字は使用され、全国に麻が付く地名は多くあります。

奈良時代には書物に記される

 奈良時代に入ると、麻は歌に登場します。現存するなかで日本最古の歌集として知られている万葉集には、麻を詠んだ歌がなんと28首もあるのです。麻という言葉は天皇から農民に至るまで、幅広い歌に含まれています。
 また、平安時代に誕生した古今和歌集も同じように歌を詠んでいる書物ですが、万葉集の方が麻を含んだ歌が多くあることから、より日本人と密接な関係にあり、生活には欠かせない素材であったことが感じ取れます。
そこで万葉集から1つご紹介です。

「 庭に立つ 麻手(あさで) 刈り干し 布 曝(さら)す
        東女(あづまおみな)を 忘れたまふな 」 
             巻4-521 常陸娘子


( 庭に生い立つ麻 それを刈り、干し、布に織って晒す私。
 この東女をどうぞ忘れないで下さいね ) 

 この歌は藤原宇合(うまかい:藤原不比等の第三子)が常陸守の任を離れて
帰京する際親しかった女性が贈った歌です。
麻に関わる作業過程が次々と重ねられ、忙しく立ち働く東国女性の姿が想像されます。
 そして、奈良時代には絹の織り方や染め方の技術が高くなったことで、上流階級の人は絹、一般民衆は麻の衣服を着用するといったように、次第に用途が分かれていきます。

江戸時代には着物などに活用される

 江戸時代になると麻はより身近な素材として人々に親しまれ、着物などに活用されだします。麻織物の技術は江戸時代に最も高くなり、質が良いものについては幕府への献上品とされていました。
 また、江戸時代に流行した遊びである凧揚げには、凧糸に麻が使われています。さらに、コマの糸も麻が使用され作られたものです。
 さらに、食についても麻が使用されだしており、江戸時代に誕生した七味唐辛子には大麻の実が含まれています。
しかし、時代が進むにつれて庶民の普段着は麻から木綿へと変化していき、単衣や足袋、布団などに使用。丈夫で肌触りが良く、かつ価格も安かったことが流行した理由です。

現在は衣類や調味料などに使用

 現在では多くの衣類で麻は使われています。なかでも夏服には最適な素材であり、麻の特徴である熱伝導による放熱性能や通気性の良さ、さらに汗の吸収や蒸発などに優れています。リネンシャツを夏物アイテムとして着用している人は多く、今や定番アイテムといっても過言ではありません。
 また、赤ちゃんが着用する麻素材の産着は、麻の成長にかけて「すくすくと育ってほしい」という想いが込められています。さらに、麻の葉模様は災いから守ってくれる御守りとされていたり、麻の香りが虫よけにも効果があることから、母親が麻を使い刺繍をする習慣がありました。もちろん今でも麻を使った産着は多く存在し、通販サイトなどで簡単に購入できます。

 さらに、上述した七味唐辛子をはじめ、日本各地の郷土料理には麻の実を使用したものが多いです。代表的なものでは、麻の実を酢飯に混ぜて作る大阪の郷土料理「おいなりさん」や、長野県の麻の実を粗く潰して豆腐に入れた「がんもどき」などが挙げられます。

まとめ

 日本の歴史において、麻は遠い昔となるおよそ1万年前には存在していたことから、密接な関係であり続けていることがわかります。身近なものでは衣類の素材に使われていたり、時代が進むと娯楽道具の一部に含まれているなど、まさに切手は離せない素材です。
 食についても麻は多くの郷土料理で活用されており、知らない間に多くの人が口に運んでいることがわかります。古来日本人が麻を使い生活をしていたことで、今の時代にも反映されています。

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引用元

https://sunchi.jp/sunchilist/craft/115196『麻とはどんな素材なのか?日本人の服と文化を作ってきた布の正体』
https://asabo.jp/museum/tradition/日本紡績協会『伝統と生活の中の麻』
https://asanavi88.com/history/history1/麻ナビ『『大麻の歴史』

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