【世界の物語】亜麻の昔話と伝説

亜麻とは、亜麻科の一年草のこと[tt1] です。亜麻の繊維で織った織物のことをリネン【linen】と呼びます。ここでは、亜麻をモチーフとした昔話や伝説などをいくつか紹介します。

亜麻の起源(北欧の伝説)

昔、一人の百姓が暮らしていました。ある日、一匹の鹿を見つけて追っていくと、大きな氷河が横たわっていて、真っ白い雪が日にきらきら輝いていました。百姓が驚いていると、氷河の真ん中に一つの扉があることがわかりました。

 百姓が扉の中に入ってみると、中の部屋には鍾乳石型の大きな乳房がたくさん垂れていて、その間に無数の宝石がちりばめられていました。その中ほどに一人の麗しい乙女が白銀を飾った衣をまとって立っており、まわりにはバラ色の冠をつけた乙女たちがずらりと並んでいました。百姓があまりの神々しさに思わずひざまずくと、白銀の乙女がここへ来たわけをたずねました。百姓は鹿を追ってきたいきさつを話し、あらためて辺りを見回すと、乙女が白い手に、青色の花束を持っているのに気づきました。その花束があまりに美しいので、百姓はそれが欲しいと思わず口をついて出てしまいました。
 すると乙女は、ここにはたくさんの宝石があるのに、それには目もくれず、この花束を選んだのに感心して、「よろしい。この花束がしぼまぬ限り、そなたの命はいつまでも続く。私は女神のホルダだがこの袋もあげよう。中にはまだ人間社会に知られていない、不思議な植物の種子が入っている。と言って袋を渡し、種子の蒔き方などを教えてくれました。
 百姓は厚く礼を述べて、急いで家に帰ると、妻に今日あったことをすべて話しました。すると妻は急に不機嫌になって、「花束なんかより、なぜ宝石をもらってこなかったのか。」となじりました。百姓はそれに構わず袋の種子を家のそばの畑に蒔くと、すぐに美しい緑の芽が一面に生え出て、すくすくと伸びていきました。百姓はそれを毎日熱心に見回っていました。
 やがてその草は、数えきれないほど無数の空色の花が咲いたと思うと、おびただしい数の実を結びました。その時女神ホルダが様子を見に来て、百姓夫婦にその植物の刈り取り方や紡いで布を織る方法、晒し方などを詳しく教えてくれました。そこで百姓がこの草の名前を聞きますと、女神はただ一言「亜麻だよ。」と言って消えました。
 百姓夫婦は喜んで亜麻を刈り取り、紡いで織って、それを白く晒すと見事な美しい布地ができました。村人たちはそれを見て非常に珍しがって、我も我もとそれを買い求めたので、百姓夫婦は大金持ちになりました。そのうえ百姓がホルダからもらった花束は、大切に保存していたのでいつまでたっても色鮮やかで、百姓夫婦には子どもが生まれ、孫が生まれ、さらにひ孫ができても凋落しませんでしたが、やがて寿命が尽きたとき、見る影もなく色あせてしぼんでしまいました。

亜麻の苦しみ(リトアニアの昔話)

 あるお手伝いの女が、夜に亜麻を湯殿で干してほぐそうと、並べていました。するとそこへ悪魔がやってきて、中へ入れてくれるように言いました。お手伝いの女はすぐに追い払いました。
 すると亜麻がみんなで戸の前に立ちはだかりました。それでも外ではずっとこう呼び続けていました。「お手伝いさん、お手伝いさん、あたしにあんたの魂をくれると約束しておくれ!」そこで亜麻は、自分たちのつらい一生の話を夜通し聞かせます。
 「あんたにわかるかい、これがどんなに気持ちのいいものか。畑へ運ばれて、ぶちまけられ、一粒残らず蒔いてもらうのが。風だの雨だのを我慢するのって、気持ちのいいものだろう?
 それからあたしらは芽を出し、大きくなるとまた風にたたかれ、雨に打たれるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それから大きくなったと思ったら、引き抜かれ、堅くしばられて束にされるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それから乾かされるといろんな棒だの、からざおだので叩かれるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それから畑に持っていかれて、広げておかれる。夜も昼も雨が降り、凍てつく寒さ……これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それから熊手でかき集められ、またぎゅっと束にされるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それから熱い湯殿に持ってこられて、乾かされるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか? 
 それから麻の皮むきの上に置かれて、メリメリ音がするほど、骨を押しつぶされるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それから麻打ち板でしごかれたり、叩かれたりするのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それから木と鉄でできた熊手で、くしけずられるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか? 
 それからくしゃくしゃにされ、つむに結び付けられ紡がれて、ひと巻きひと巻き巻き上げられるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか? 
それから壁に張られて集められ、それから、ひとまとめにされ巻き上げられるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それからあたしらは一本の軸に巻き上げられ、ほどかれる。  
 それから打たれて、織られて、おさで打たれるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それからすっかり織り上がると、熱い漂白剤を注がれ、蒸気を当てられて、熱湯をかけられるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それから池に持って行かれて水にひたされ、その上木づちでトントン叩かれるんだから!これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それから野原に広げられて乾かされ、またくるくる巻かれるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それからあたしたちは、とられて、まるめてボールのようにされ、また針で縫い合わされるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それからまたほどかれ、切り取られて裁断されると、身につけられてあちこち引っ張られるのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?
 それから、ぼろぼろにすり切れて穴があくまで着尽くされて、とうとう何もなくなってしまうのさ。これを我慢するのって、気持ちのいいものだろうか?」
 そのとき、雄鶏が時を告げました。悪魔はお手伝い女をののしって、逃げていきました。

三人の糸紡ぎ女(グリムの昔話)

 昔あるところに、なまけものの娘がいました。娘は糸を紡ぐのが嫌いで、母親がいくら言っても糸を紡ごうとしませんでした。あるとき、ついに母親が娘をぶちますと娘は大声で泣き出しました。
 ちょうどその時、おきさきが馬車で通りかかり、娘が泣くわけをたずねました。母親は娘のなまけぶりを知られるのが恥ずかしくて、こう言いました。 
「娘に糸紡ぎをやめさせられないのでございます。娘は糸紡ぎが大好きなのですが、私は貧しくて亜麻を買うお金がないのです。」
 おきさきは言いました。
「私は、糸紡ぎの音を聞くのが何より好きですよ。娘を城へ連れて行ってよいなら、思う存分亜麻を紡がせてあげよう。
 母親は喜んでおきさきの申し出を受け、おきさきは娘を城に連れ帰りました。
 城につくとおきさきは娘に、床から天井まで上等の亜麻でいっぱいの三つの部屋に案内しました。そして、この亜麻をすっかり紡ぎ終えたら、娘をおきさきの一番上の息子と結婚させてあげよう、と言いました。
 娘は途方に暮れ、一人になると泣き出して、三日の間亜麻には手も触れずに座っていました。三日目になるとおきさきがやってきて、娘が全く紡いでないのを見ていぶかしく思いました。娘が、家が恋しくて仕事が手につかないのだと言うと納得しましたが、「明日は仕事を始めなければいけないよ。」と言いました。
 娘はまた一人になりました。すっかり悲しくなって窓辺に歩み寄ると、三人の奇妙な女がやってくるのが見えました。そのうちの一人は、片方だけ平べったい大きな足をしていました。二人目は、下唇がとても大きくてあごの下まで垂れていました。三人目は、片方だけとても幅広い親指をしていました。
 三人の女は窓の下で立ち止まると、どうかしたのかと娘に聞きました。娘がわけを話すと、三人は助けてあげよう、と言ってくれました。そして、
「あんたが私たちを結婚式に呼んでくれ、私たちのことを、恥ずかしがらずにおばさんたちですといい、その上私たちをあんたのテーブルに座らせてくれるなら、その亜麻をすっかり紡いであげよう。それも、あっという間にね。」と言いました。
 娘は、
「喜んでそうします!」と答えました。「さあ、中へ入って、早速仕事を始めてください。」
 一人が糸を引き出して糸車を踏むと、二人目が糸を唇で湿らせ三人目がそれを撚り合わせて、指で台をたたきます。たたくたびに、撚り糸がどさりと床に落ちましたが、その糸は実に見事に紡がれていました。三つの部屋の亜麻糸はあっという間に片付いてしまいました。
 娘がおきさきに空になった部屋と山のような撚り糸を見せると、おきさきは結婚式の支度にかかりました。花婿も、こんなに腕の良い働き者の花嫁を迎えることを喜びました。
 娘は約束通り、三人の女を結婚式に招待しました。いよいよ式が始まると、風変わりな衣装を着た三人の女が入ってきました。花婿はびっくりして、平べったい足の女のそばへ行き、
「どうして、そんな平べったい足になったんですか?」と聞きました。
 するとその女は、
「踏むからさ、踏むからさ。」と答えました。
 それから花婿は、二人目の女のところへ行って、
「どうしてそんなに、唇が垂れ下がったんですか?」と聞きました。
「舐めるからさ、舐めるからさ。」と、その女は答えました。
 そこで花婿は三人目の女のところへ行って、
「どうしてそんなに幅の広い親指をしてるんですか?」と聞きました。
「撚るからさ、撚るからさ。」と、その女は答えました。
 これを聞いた王子はびっくりして、
「そんなことになるのなら、私の美しい花嫁には金輪際、糸車に触らせないぞ。」と言いました。
  こうして娘はあの嫌な糸紡ぎから解放されました。

まとめ

 これらの昔話や伝説を読んでみると、亜麻が種蒔きから収穫をへて、糸に紡がれ、布に織られて服が作られるまで、大変な労力がかかることがわかります。伝え方の違いはあっても物語から紡ぎ方も伝わってきますね。他にも色々なメッセージを見つけるのも伝説や昔話の楽しみでもあります。
 亜麻は昔から人々にとって身近な植物であり、糸紡ぎも大切な仕事の一つで、だからこそ糸紡ぎが上手な娘は重宝されたのでしょう。
 物語を通じて亜麻の紡ぎ方時にはこうした昔話や伝説に思いを馳せながら、リネンを身にまとってみてはいかがでしょうか?

引用元

近藤米吉編著「亜麻の起源」『植物と神話 花と木とロマンの詩』雪華社
小澤 俊夫編「亜麻の苦しみ」『世界の民話33 リトアニア』ぎょうせい
ヤーコプ・グリム著「三人の糸つむぎ女」『子どもに語るグリムの昔話③』こぐま社
グリム童話 グリム兄弟のすべてのおとぎ話「糸くり三人女」https://www.grimmstories.com/ja/grimm_dowa/index

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

アーカイブ