【麻も燃料に⁈】麻からできた自動車で環境問題解消へ

近年、環境意識の高まりから、自分ひとりの行動が、環境問題に結びついていると考える人が増えてきています。その問題の中心のひとつには、プラスチックの存在があります。金属と比べて、軽く、安価である点、簡単に成形(つくりたい形に)することができるプラスチックは汎用性の高い材料となっています(正確には、熱可塑性樹脂をプラスチック、熱硬化性樹脂をレジンと呼び、この総称を樹脂材料と言いますが、今回は樹脂材料をプラスチックと呼んでいます)。自動車、飛行機、衣料品からスマートフォンに至るまで、現代生活で必須となったもののほとんどにプラスチック部品が含まれています。つまり、環境問題とは、プラスチックとどう付き合っていくかという問題と言い換えることができます。

プラスチックの商業利用

 プラスチックは、純度100%では劣化しやすく、耐熱性も低く、弱くて軽いだけの材料で、汎用性が著しく下がってしまいます。そこで、一般的に、長く使えるようにする(抗酸化剤などの安定化剤)[引用1]、柔らかくする(可塑剤)[引用2]、硬くする(結晶増核剤、粘土、金属粒子やガラス繊維)[引用3]ためにいろいろな化学物質(添加剤またはコンポジットと呼ぶ)を数%から50%プラスチックに混ぜて使用しています。 
 これまではプラスチックを金属の代替品として使用できるように強い材料を作るという目的でコンポジット材料を開発してきました。しかし、現代の化学工学の発展により、プラスチックの精度(強い、また、安定して同じ性能がでる)が可能となっています。そうなると、現在のプラスチックを強くしながら、プラスチックの占有率を下げようとする動きがあります。このプラスチックに金属粒子などを入れることを、ポリマーコンポジットといい、先ほど説明したように使用用途に合わせて、異なる金属などを入れることで、その性能を引き出すよう工夫しています。性能を変えずにプラスチックに環境に優しい材料を50%コンポジットするだけでも、プラスチックの使用率は50%減らせることができます。そこで、プラスチックにどんな材料を混ぜるかということに注目を集めています。
 亜麻(フラックス)、苧麻(ラミー)、洋麻(ケナフ)から得られる植物繊維は、強くて安価、人体に無害である上に、非石油由来のカーボンニュートラルな材料です。もし、これらの麻材料をプラスチックに置き換えることができれば、重量で10%以上、体積で50%以上を超える自動車のプラスチックの一部を代替できることになります。1 kgのポリエチレンの製造あたり0.38 kgの二酸化炭素を排出すると言われています[引用4]。さらに燃焼時に1 kgあたり、1.39kgの二酸化炭素が排出するとかんがえられています[引用5]。車の重量を1.5 トン(1500 kg)とした時、150 kgがプラスチックで構成されており、仮に1%の1.5 kgを麻植物に置き換えた場合、製造中に0.6 kgの二酸化炭素を削減できるわけです。プラスチックの量を減らせば、二酸化炭素を削減することもさらに可能です。もちろん、麻を伐採してそのままプラスチックに混ぜるわけでないですから、実際には二酸化炭素排出量を削減できる量は若干低い値となりますが、このように、麻を使うことと環境問題は密接につながっています(説明が長くなるので、ここでは省略しますが、カーボンニュートラルの考えに乗っ取れば、製造中および“燃焼後”の二酸化炭素を削減可能です)。
 プラスチック自体の使用を禁止しろ、完全代替しろという極論も聞くことがありましたが、それは違います。確かに、海外でボディを全て麻で作った車が以前話題になっていました[引用6]。しかし、プラスチックは金属に比べて非常に軽い材料です。車体自体が軽くなると、その分運転に使うガソリンの使用量も減るため、ある意味現時点でもエコカーであることに間違いありません。

ヘンプボディのグリーンカー

バイオ燃料

 トウモロコシからバイオエタノールやディーゼルを大規模に作るというブラジルの政策から、一時期、トウモロコシの価格が上がったことがありました。どんな植物からバイオエタノール、バイオディーゼルを作れるのでしょうか?また、麻からバイオエタノールやバイオディーゼルを製造できるのでしょうか?

http://www.jarus.or.jp/biomass/basis/ethanol.html

まず、一つ目の回答に関して、現在ほとんど全ての植物からバイオエタノール、バイオディーゼルの製造は可能です。しかし、構成する化合物の含有量の違いから、製造方法やコストが異なります。バイオエタノールの原料として①さとうきびやてんさいといった糖質の多い植物、②トウモロコシ、コメ、麦といった、でんぷん質の多い植物、そして、③麻を含めたセルロースを多く含む植物の三種類に大別しています。一般的にバイオエタノールとして実用化されているものとして、①と②がありますが、③のセルロースを多く含む材料において研究段階でありながら実用化に期待が集まっています[引用7]。セルロースからバイオエタノールを作るにあたって、発酵に必要な糖を取り出し、その後、発酵するため、割高になります。しかし、バイオマスの大部分がセルロースやヘミセルロースと呼ばれる材料からできており、これらの化合物は③の方法でしかバイオエタノールを作れません。一方で、バイオディーゼルは植物油を自動車などの燃料用に製造することをいいます。よく家庭用の廃油で車を運転するというが、放送されています。まさにあれがバイオディーゼルです。麻の種から抽出される油がこのバイオディーゼルとして注目されています[引用8]。現在は専ら医療用で使用するために、広く研究されています。

まとめ

麻は野菜や花などに必要な暖かく栄養のたくさんある農地を必要としない過酷な環境でも耐えられる植物です。また、一年生植物という点メリットがあり、価格が安価で、資源のない発展途上国で栽培することで、これまで衣服としてしか使用していなかった麻から石油を作る(プラスチック材料の一部代替とバイオディーゼルを作製する)ことができるといっても過言ではありません。自動車ボディや部品からガソリンまで麻で代替し、環境に優しい自動車が増えることを願い、締めの言葉とします。

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引用

 1.Dopico-García, M. S., J. M. López-Vilariñó, and M. V. González-Rodríguez. “Antioxidant content of and migration from commercial polyethylene, polypropylene, and polyvinyl chloride packages.” Journal of agricultural and food chemistry 55.8 (2007): 3225-3231.
2.Cadogan, D. F., & Howick, C. J. (2000). Plasticizers. Kirk‐Othmer Encyclopedia of Chemical Technology.
3.Manias, E., Touny, A., Wu, L., Strawhecker, K., Lu, B., & Chung, T. C. (2001). Polypropylene/montmorillonite nanocomposites. Review of the synthetic routes and materials properties. Chemistry of Materials13(10), 3516-3523.

4.https://www.pochem.co.jp/jpp/rc/ecopp.pdf
5.https://www.mizushima21.co.jp/info/info10/info10.htm

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